夢の日記

 

この世界には危ない魚がいる。大人が言うにはそれは3回成長するらしくて稚魚のときは人間に噛みつき、一度目の成長では有害の光線を放ち、最後は自然破壊をするため土地が駄目になってしまうとのことだ。

厄介なことにそれにはちゃんと知能があるという話も授業で聞いていた。

 


少年と少女は学校帰りいつもとは違うちょっと離れた川に向かっていた。

音楽の教科書に載っていた海がとても綺麗で、でもそんなところには行けるはずのない彼らが捻り出した考えだった。

 


実際に見た川は教科書に載っている海とは全く違うものだったけど彼らにとっては大冒険の果てに手に入れた景色だったのでとても素敵なものに見えた。世界はキラキラしていた。

川に入ると冷たくて気持ち良くて帰ったら怒られることなんて忘れて頭まで川に浸かってみたりとかしちゃって。その先の小石に魚が挟まれて動けなくなっていることとか見ちゃったりして。ヤバ、と彼は言ってそちらに向かい小石を退けた。

 


泳いで去っていくと思った魚は彼をじっと見つめている。

なんだよこいつ!と彼は水から顔を出した。魚も水から顔を出した。

息ができる世界でじっくりとそいつの魚を見てみる。大人が口を酸っぱく言っているあの魚じゃないか!

 


彼は小さく悲鳴を上げ後退り、それに気づいた周りの3人は彼に近づく。

「あの魚じゃん!」「噛まれるよ危ないよぉ」「早く逃げなきゃ」「でも教科書と少し違くない?」「いや教科書のままだろ、ぎょろっとした目があってよく見ると鰭に紛れて小さい手がある」「見た目はそのままだけど動きだよ、人間を見たらすぐに噛みついてくるから逃げなさいって先生言ってたじゃん。」「たしかに。あいつずっと俺のこと見ているけど何もしてこないぞ。」

試しに魚に近づいてみた。

魚はぱしゃぱしゃと跳ね上がった。動いた瞬間こそ彼らは怯えを感じて動きを止めたが、ずっと跳ねているそれを見ると可愛さを感じた。

 


なぁんだ。全然噛みつかないじゃん。

その日は魚と一緒に遊び、チャイムの音が聞こえた瞬間「大変、走って帰らないと川に行ったのがバレちゃう」と言いながら慌てて荷物を取りに川から出た。

 


魚が後をついてこようとする。

川からは出られないのでみんなが川から出た瞬間少し悲しそうにぱしゃ、ぱしゃ、と跳ねる。

「また明日来てやるから!」

あまりに悲しそうだったからそう声をかけて手を振ると魚は嬉しそうに大きく跳ねた。

よく見ないとヒレと混ざるくらいに小さな手を必死に振っているのが見えた。

 

 

 

「またあの川に行こうよ」

彼が声をかける。

「でもやっぱり危ないよ。お母さんもだめって言ったし…」「昨日のこと言ったのか!大人にバレたらあいつ殺されちゃう!」「しー、先生に聞こえちゃうよぅ。」「誰にも言ってないわよ!言ったら殺されちゃうことくらい分かってるもん!」

小声でヒソヒソと話し合いをする。

でも子供の内緒事なんて案外大人にはバレているものなのだ。学校を出てから話せばよかったものを。

 


結局今日もいつもの川に行くことになった。

魚はこちらに気づいた瞬間嬉しそうに跳ねた。

川に入ると自分達の足元をぐるぐると泳ぐ。

 


気づいたら学校が終わったら川に向かうのが日課になっていた。

絶対大人には話さない。遠出が気づかれないようにチャイムがなる30分前には帰る。

このような内緒事にワクワクする気持ちもあったが、それ以上に大人が言うような危ない生き物ではないのかもしれないこの子がとても可愛く見えていたのだ。

 


ある日川に行くと魚は成長して教科書の写真の通りの見た目になっていた。

いつも通り遊びに行くと手足が伸び、ペタペタと川から這い出てくるそれに一瞬恐怖を覚えたが、稚魚の時代も何もしなかったという安心感から光線を浴びさせられるかもしらないという恐怖はあまり感じなかった。

 


首を頷く、横に振る、傾けるを覚えたそれに「先生が言ってたんだけどお前ってビーム撃てるの?」と聞いてみる。魚は首をかしげた。

「だからあれだよあれ!シュババー!て、なんか、さあ、あー!」「わたしたちをやっつけちゃう光出せる?」「そう!それ!」

魚はすごい勢いで首を横に振った。

敵意がないことがわかり安心したと同時に大人が言っていることと形状以外違うことに首を傾げた。魚も釣られて首を傾げた。その姿が面白くて、もうそんなこといいか!と今日も魚と一緒に遊んでいた。

 


出会った頃よりもギョロッとしている目玉に伸び切った手足、「あ、う、」と言葉を放つそれは魚と言って良いものではない見た目になっていた。

それでも長年一緒に遊んできたそいつは彼らにとっては友達のようになっていてそんな見た目は気にならなかった。

 


いつもと同じ教室に入り、はやく授業終わらないかな、川に行きたいな、と思いながら席に着く。

チャイムが鳴り先生が教室に入ってくる。いつも通りの教室だけど先生の様子だけは少しおかしかった。

 


「悲しいお知らせがあります。誰かが外れの川であの魚に餌を与えていたせいで川周辺が燃やされています。危ないからあそこの近くで遊んでいる人、いるかもしれないけど暫く行っては行けません。」

その言葉を聞いた瞬間彼は教室から出ていた。あいつが危ないかもしれない、という気持ちともしかしてあいつがやったのか、という疑念でぐちゃぐちゃになっていて走ることしか出来なかった。

 


川にはたくさんの大人がいて、大人達は真っ白い洋服で全身を包んで川周辺を燃やしていた。

火の中でぼんやり見えるあの魚を木箱に入れる姿。火を出す機械をそちらに向ける真っ白な姿。「やめてよ!」と叫ぶ前に彼は背後から大人に捕まれた。

 


「見られたっぽいぞ」「どうしてこんなところにいるんだ、面倒だな」「こいつもこの火の中に入れちゃえばどうだ。被害者がいた方が都合が良い。」「たしかにそうだな。そうしよう」

彼は恐怖を感じた。殺される。世界を壊しているのはあの魚じゃなくて大人だった。

 

子供だからわからないけどこれは大人の事情だ。

世界の解決できない問題をさらに大きな問題で包み込んで、それの犯人を別の何かにしてしまえば自分達は攻撃をされない。

更にその犯人を積極的に駆除しているとなれば大人の評価は上がる。別の大人はそれらに騙されていて、でもそれを疑わず真実だと思い込んで次の世代に語り継ぐ。世界はそういうものだった。

 

「そのキモいやつとお友達らしいからこいつと一緒に燃やしてやろう。なぁに跡形もなく燃えるから同じ場所にいたなんて気づかねえよ。危ないから行っちゃいけないって言われてるのに勝手に入って勝手に死んだ少年。何ならこいつがこの魚を育てていたってことにしちゃえばいいんだろ。」「そうだな。丁度いい箱もある。縛っておけ。よし。ほらお友達だよ。少しだけ暗くて暑いけど耐えれるものなら耐えてみな。耐えてもまた燃やすけどよぉ。」


上手に回っていると思っていた世界の裏事情が分かったがもうこの状況ではどうしようもない。この状況じゃなくてもこんな小さな少年1人の話なんて誰が信じるだろうか。辺りが暗闇になる。魚を抱きしめると震えていた。可哀想だと思った。守りたいと思ったが自分には何もできないことを感じて無力を感じることしかできなかった。

 

 

 

喉が焼ける感覚。うるさいアラーム。天井。

洗脳された世界が今日も続くことに絶望を覚える。圧倒的力に捩じ伏せられるしかない己にも無力感を感じる。

壊れても助けてくれない世界らしいのではやく目をつけられて殺された方が楽なのかもしれない。ところであの少年は結局殺されたのだろうか 殺されたんだろうな

枠組みに当てはめられない人間は厄介で殺した方が早いからじわじわと自殺に追い込む世界 追い込んだくせに悪者になる覚悟なんてないから「死ぬ前に相談して欲しかった」とか言ってみちゃう世界

覚悟もないのに人を傷つけたりしないでね