幻覚のおばあちゃん



幻覚のおばあちゃんがひさしぶりに会いにきてくれました。鬱のときに会いにきてくれるおばあちゃんのことが私は大好きです。おばあちゃんはいつも通り私のことを包丁を持って見下ろしています。話しかけてもおばあちゃんは何も答えずに私のことをじっと憎しそうな目で見つめてくるので、私は眠ることにしました。

おばあちゃんはそれが気に入らなかったのか私の背中を蹴ってきました。幻覚のはずなのに痛みを感じて私はベッドから飛び起き、その場で正座をしました。

「無視してごめんなさい」そう言ってもおばあちゃんは包丁を握り締めながら私を無言で見つめています。大学の時からずっと声をかけずに眺めているだけだった私が悪いのです。

「私のこと殺したいの?」包丁を指差して聞いてみます。おばあちゃんはぴくりともしません。

「隣に座っていいよ、お話しよう」そう言ってベッドを叩いてみてもおばあちゃんは何も言わずに私を見下ろし続けます。

叩かれて痛かったってことは刺されたら死んじゃうだろうなあと思いながらぼんやりと包丁を握りしめているおばあちゃんの手を眺めていると、ドアが開く音と共にリビングに電気が付きました。

立ち上がろうと我に帰ると正座していたはずの私の世界は全てが横向きになっていて、私はお布団の中にいました。私の事を見下ろしていたおばあちゃんはもうそこには立っていません。

蹴られたはずの背中も特にあざにはなっておらず、試しに撫でてみてもズキン、とも言ってくれません。

おばあちゃんは私が鬱になったときだけ会いにきてくれる人なので、きっとおばあちゃんが消えた今私は大丈夫ということなんだな、と思い私はまた眠りにつきました。おやすみなさい。